1Xテクノロジーズとは何か、2万ドルか月499ドルの家庭用ヒューマノイドNEO、ヘイワード工場と資金調達を解説
1Xテクノロジーズは2014年にノルウェーでHalodi Roboticsとして創業した米パロアルトの企業で、身長1.68メートルの家庭用ヒューマノイドNEOを2万ドルまたは月499ドルで販売し、2026年の米国納入を約束している。
予約開始から5日で1年分の生産量1万台が埋まったとし、ヘイワード工場は年1万台から2027年末に年10万台超を目指す。確認済みの調達額は1億2350万ドルで工場向けの競合を大きく下回り、初期のNEOはロボット単独でできない家事を1Xの遠隔オペレーターに頼る。
1Xテクノロジーズは、ヒューマノイドが最初に稼ぐ場所は工場ではなく居間だと賭けている。米パロアルトの同社は身長1.68メートル、重さ30キロの家庭用ヒューマノイドNEOを2万ドルまたは月499ドルで販売し、2025年10月28日に予約を始めてから5日で1年分の生産量にあたる1万台が埋まったと発表した。米国の競合であるフィギュアAIやアジリティロボティクス、アプトロニクは自動車工場や物流倉庫に、定価のない契約で販売している。
戦略だけでなく財務の姿も異例だ。MEKAWIREのデータベースで確認できる1Xの調達額は1億2350万ドルで、フィギュアの17億4500万ドルのおよそ14分の1にとどまる。本稿ではNEOとは何か、1Xがどう作りどう資金を賄うのか、家庭優先の戦略の成否を何で判断するかを整理する。
ノルウェーのモーター会社から家庭用ロボット企業へ
1Xは2014年、現最高経営責任者のBernt Børnich氏がノルウェーで設立したHalodi Roboticsが前身だ。社史はモーターから始まる。2018年に低減速比と腱駆動向けのサーボモーターRevo1を開発し、2022年には車輪型ヒューマノイドEVEを顧客施設に導入した。2023年に家庭へ軸足を移し、2024年にNEO Beta、2025年にNEO Gammaを発表、現在は本社をパロアルトに置く。
この系譜が製品を説明する。多くのヒューマノイドの関節は100対1以上の減速機を使い、力は強いが硬い。1Xは2026年7月9日のハンド発表で、減速比約5対1から15対1の腱でNEOを駆動していると明らかにした。人や物に押されると関節が逆に動くバックドライバビリティが、子どもと台所を共有するロボットの安全性の根拠になる。
日本の部品メーカーにとって、これは見逃せない点だ。ハーモニックドライブシステムズやナブテスコの精密減速機は、高減速比の関節を前提とするヒューマノイドで需要が見込まれている。1Xの方式が広がれば、価値はモーターや磁石、ケーブルの技術に移る。
2万ドルで買えるもの
注文ページには二つの選択肢がある。所有型は2万ドルで3年保証とプレミアムサポート、優先配送が付き、サブスクリプションは月499ドルで標準配送となる。いずれも返金可能な予約金200ドルから始まり、米国での納入は2026年に始まる。定価ベースではサブスクリプションの累計額が購入価格に並ぶのは約40カ月後だ。
仕様表には持ち上げ70キロ、運搬25キロ、842Whの電池で4時間稼働、歩行速度毎秒1.4メートル、騒音22デシベル、エヌビディアのJetson Thorを使うNEO Cortexが並ぶ。体は柔らかい格子状ポリマーと洗濯できるニットのスーツで覆われる。製品ページのハンドは22自由度で、7月には指と手のひらの22自由度に手首3自由度を加えた25自由度ハンドを全てのNEOに載せると発表した。
- R1
- ユニツリー
- 5,900ドル
- 開発者、教育
- G1
- ユニツリー
- 13,500ドル
- 研究、教育
- NEO
- 1Xテクノロジーズ
- 2万ドルまたは月499ドル
- 家庭
- H2
- ユニツリー
- 約3万ドル
- 研究、産業実証
各社の公表価格とMEKAWIREの既報、2026年10月17日時点。サブスクリプションの損益分岐 = 2万ドル / 499ドル = 40.1カ月。
2026年10月17日時点
製品の一部は人である
製品ページで最も重要なのは自律性に関する記述だ。NEOは初期購入者に基本的な自律性で届けられ、1XのRedwood AIで動き、知らない家事は予約した時間に1Xのエキスパートが遠隔で監督する。同社はこれをロボットが仕事をしながら学ぶ方法と説明する。
初期のNEOはロボットと遠隔サービスの組み合わせといえる。2026年1月12日に発表した1Xワールドモデルは140億パラメーターの動画モデルで、人の動画900時間とNEOのデータ70時間で学習し、自社試験では簡単な作業はこなしたが細かい作業には失敗した。6月にはワールドモデル研究所を設け、身体性AIで持続する唯一の強みはデータだとした。そのデータを集める場が家庭と、そこでロボットを導く遠隔オペレーターである。
受注に合わせた工場
1Xは2026年4月30日、5万8000平方フィートのヘイワード工場が従業員200人超で本格生産に入ったと発表した。年内に稼働するサンカルロス拠点と合わせ年最大1万台を生産でき、自動化で2027年末に年10万台超を目指す。モーターは自社で巻線し、これまでに1万7000個を製造した。腱駆動系、ハンド、年1万個規模の電池パック、電子部品までほぼすべてを内製する。当時生産したロボットはまず社員の家庭での試験に回した。
資金は少なく、開示も少ない
- 1Xテクノロジーズ
- NEO、家庭
- 123.5
- 非開示
- フィギュアAI
- Figure 03、工場と小売
- 1,745.0
- 投資後390億ドル(2025年9月)
- アプトロニク
- Apollo、製造と物流
- 923.0
- 非開示
- アジリティロボティクス
- Digit、倉庫と工場
- 366.9
- 20億ドル(2025年シリーズC)、SPACで投資前25億ドル
MEKAWIREデータベースの確認済みデータ(企業と投資家の発表、SEC提出書類)、2026年10月17日時点。開示額であり推計ではない。1Xが認めていない後続の大型調達の報道は含めていない。
2026年10月17日時点
確認済みの調達は2023年3月のOpenAIスタートアップファンド主導のシリーズA2 2350万ドルと、2024年1月のEQTベンチャーズ主導のシリーズB 1億ドルの2件だけだ。企業価値は開示されておらず、その後の大型調達の報道は同社が認めていないため除外した。2026年7月に米クルーズの元最高財務責任者Bill Nash氏を迎えたことは大型調達の準備と読めるが、これはMEKAWIREの見方である。
予約1万台を定価2万ドルで計算すると2億ドルで、確認済み調達額の約1.6倍になる。ただし予約金は200ドルで返金でき、サブスクリプションの比率も開示されていないため売上ではない。
MEKAWIRE分析
1Xが売っているのは家事もこなすデータ収集網である。家庭は学習の場、遠隔エキスパートは安全網であり、顧客の忍耐が尽きる前に自律性が上がらなければ事業は成り立たない。
根拠は1X自身の発信にある。製品ページは使うほど能力が伸びると約束し、ワールドモデル研究所はデータを強みに挙げ、工場の発表は実世界データ収集の制約がもはや台数ではないと述べた。消費者向け価格は、何千もの異なる家庭にセンサーとハンドを持ち込むための費用である。
最も強い反論は、工場は今払うが家庭はいつ払うか分からないという点だ。フィギュアは2026年4月までに350台超を納入しBMWの工場で稼働し、アジリティはDigit 5の受注が3億ドルを超えたとする。家庭用ロボットは子どもやペットのそばで安全でなければならず、散らかった環境に耐え、家事代行の料金と競う必要がある。私的空間に遠隔オペレーターが入ることへの抵抗もある。株主EQTの投資先企業に2030年までに最大1万台を供給する契約は、1X自身が産業用途にも保険をかけていることを示す。
高齢化と人手不足が進む日本では家庭向けロボットへの関心は高いが、国内メーカーで全身型ヒューマノイドを家庭向けに定価販売する例はまだない。1Xが価格と保守サービスの基準を先に示すことになりそうだ。
強気のシナリオは2026年末に予定通り納入が始まり、家庭での自律処理率が目に見えて上がり、データの優位で再学習なしに新しい家事を覚えて大型調達を正当化する場合だ。弱気のシナリオは納入が2027年にずれ込み、初期の機体が遠隔操作に大きく依存し、サービスと保証の費用で2万ドルの販売が赤字になる場合である。
見るべき日付のある指標は三つある。2026年と約束した初の有償納入、年内予定のサンカルロス稼働、1Xの価値を数字で示す調達の開示やForm Dの提出だ。我々の判断を変えるのは、エキスパートなしで終えた家事の比率の開示であり、1Xはまだ示していない。
- 1X sells NEO for $20,000 with a three-year warranty and priority delivery, or as a $499-a-month subscription, against a $200 refundable deposit; its order page says US deliveries start in 2026.
- NEO is 5 ft 6 in (1.68 m) tall and weighs 66 lb (about 30 kg); 1X lists a 154 lb lift, a 55 lb carry, an 842 Wh battery for four hours of run time, 22 dB of noise and an NVIDIA Jetson Thor computer.
- 1X said on April 30, 2026 that it booked its entire next year of production, 10,000 NEOs, within five days of the Oct 28, 2025 launch.
- The 58,000 sq ft Hayward, California factory employs more than 200 people; with a San Carlos site, 1X says it can build up to 10,000 NEOs a year and aims for more than 100,000 a year by the end of 2027.
- 1X makes its own Revo2 motors, tendon drives, hands and battery packs; it reported 17,000 motors built in Hayward and a 25-degree-of-freedom hand announced on July 9, 2026 with capacity for 10,000 hands this year.
- For chores NEO cannot do alone, a 1X Expert can remotely supervise it at scheduled times, which 1X presents as a way for the robot to learn.
- Verified funding in the MEKAWIRE database totals $123.5 million, made up of a $23.5 million Series A2 led by the OpenAI Startup Fund in March 2023 and a $100 million Series B led by EQT Ventures in January 2024. 1X has disclosed no valuation.
- 1X agreed in December 2025 to offer up to 10,000 NEOs to companies owned by its investor EQT between 2026 and 2030.
なぜ重要か
1Xは資金力のあるヒューマノイド企業の中で、家庭用ロボットに消費者価格とサブスクリプション、納入年を公表した唯一の企業だ。納入に成功すれば家庭向け市場全体の価格とサービスの基準を握り、失敗すれば資金はさらに工場向けヒューマノイドに集まる。
日本にとっては、高齢者世帯の家事支援という需要が大きい一方で、遠隔オペレーターによる見守りと家事代行をロボットに組み込む1Xのモデルが、介護や家事サービスの人手不足対策として通用するかを測る試金石になる。
競合分析
フィギュアAI(確認済み17億4500万ドル、投資後390億ドル)はBMWスパータンバーグ工場でFigure 03を稼働させ、定価はない。アジリティ(3億6690万ドル、SPACで投資前25億ドル)はトヨタのカナダ工場などにDigitをサービスとして提供する。アプトロニク(9億2300万ドル)は製造業向け。ユニツリーは開発者向けヒューマノイドを5900ドルから約3万ドルで売り、2025年に5500台超を出荷した。2026年3月に企業価値11億5000万ドルで1億6500万ドルを調達したSundayは最も近い家庭用の競合だが、車輪型の双腕ロボットだ。
日本勢ではファナックや安川電機が産業用で強いが、家庭向け全身型ヒューマノイドで1Xと直接競合する企業はまだない。
企業価値の背景
1Xの企業価値は開示されておらず、本稿も推計しない。開示された比較対象はフィギュアの390億ドル、アジリティの20億ドル(2025年シリーズC)とSPACでの投資前25億ドル、Sundayの11億5000万ドルである。アジリティのS-4では2025年の売上高180万ドルに対し損失1億3800万ドルで、これらの価値は現在の売上ではなく将来の台数に依存している。
1Xでは定価ベース2億ドルの予約と確認済み調達額1億2350万ドルの関係が鍵になる。相当部分が定価で納入されれば、大型の後期調達前に消費者売上を持つ数少ないヒューマノイド企業になる。
サプライチェーンへの影響
1Xは2015年からノルウェーのモスで開発するRevo2モーターを自社で巻線し、腱駆動系とハンドを専用ラインで作り、航空宇宙グレードのセルで電池パックを組み、工場ソフトも内製する。外部調達の中核として明記されているのはエヌビディアのJetson Thorだ。
日本の部品メーカーへの含意は大きい。高減速比の関節を使うヒューマノイドはハーモニックドライブシステムズやナブテスコの顧客になり得るが、5対1から15対1の腱駆動は高減速比の減速機を減らし、モーターや磁石、電磁鋼板、ケーブル技術の比重を高める。日本の電磁鋼板やネオジム磁石のメーカーにとっては別の需要経路になる。
今後の注目点
1. 2026年と約束した米国での初の有償納入、その日付と台数、所有型とサブスクリプションの比率。 2. 2026年中に稼働予定のサンカルロス工場と、2027年末の年10万台目標の進捗。 3. 2024年1月のシリーズB以来となる調達の開示、Form D、企業価値の公表。 4. EQT投資先企業での2026年の米国実証の規模。
アナリストの見方
仮説:1Xはロボット付きの家庭データ網を築いており、その価値は数千台が家庭に入った後にNEOの自律性がどれだけ速く向上するかで決まる。確信度:中程度。データやワールドモデル、遠隔エキスパートに関する同社の発信はこの見方を支えるが、納入台数と自律処理率、最近の調達額が欠けている。
確信度を上げるのは2026年中の予定通りの納入と自律処理率の開示、下げるのは2027年への遅れや、台数の大半がEQTの産業実証に回ること、遠隔操作への依存が大きいとの報道である。
問うべき論点
1. 初期の家庭でNEOがエキスパートなしでこなす家事の比率はどれだけで、どの速さで上がっているか。 2. 予約1万台のうちサブスクリプションは何台で、遠隔エキスパートの費用はロボット1台あたり月いくらか。 3. 家庭内の映像と音声はどう保存され、初期設定でワールドモデルの学習に使われるのか。 4. 有償顧客に実際に納入したNEOは何台で、サンカルロス工場はいつ稼働するか。 5. 2024年のシリーズB以降にいくら調達し、企業価値はいくらか。
