ABBロボット事業、ソフトバンク傘下入り前の最終年度は売上高2.8%増、10~12月期の営業利益はほぼ半減

ABBが2026年1月29日に10~12月期決算とともに公表した財務資料によると、ソフトバンクグループに53億7500万ドルで売却するロボット事業の2025年売上高は23億3100万ドル、営業利益は2億9400万ドルだった。10~12月期は費用が48%増え、営業利益は前年同期の7100万ドルから3700万ドルに減った。売上総利益率は改善した。
スイスのABBのロボット事業は、グループ内で迎える最後の通期を小幅増収、大幅減益で終えた。ABBが2026年1月29日、10~12月期決算と同時に公表した財務資料によると、ソフトバンクグループへの売却を控えて非継続事業に区分したロボット事業の2025年売上高は23億3100万ドルと、2024年の22億6700万ドルから増えた。一方、営業利益は3億3100万ドルから2億9400万ドルに減った。
10~12月期はさらに弱かった。非継続事業に関する注記によると、同期の売上高は5億8100万ドルと前年同期の5億9400万ドルを下回り、営業利益は7100万ドルから3700万ドルに落ち込んだ。純金融費用1300万ドルと法人税1700万ドルを差し引いた純利益は600万ドルで、前年同期の4700万ドルを大きく下回った。通期の税引き後利益は2億2600万ドルから1億7400万ドルに減少した。
減益の要因は売上総利益より下の段階にある。10~12月期の売上総利益は1億8900万ドルから2億1200万ドルに増え、MEKAWIREの試算では売上総利益率が31.8%から36.5%に上昇した。これに対し費用は1億1800万ドルから1億7500万ドルへ48%増えた。ABBは増加の内訳を開示しておらず、発表資料でも説明していない。ABBは売却発表時、分離費用を約2億ドルと見積もっていた。
- 売上高
- 594
- 581
- 2267
- 2331
- 売上原価
- -405
- -369
- -1497
- -1527
- 売上総利益
- 189
- 212
- 770
- 804
- 費用
- -118
- -175
- -439
- -510
- 営業利益
- 71
- 37
- 331
- 294
- 税引き後利益
- 47
- 6
- 226
- 174
- 売上総利益率(%)
- 31.8
- 36.5
- 34
- 34.5
- 売上高営業利益率(%)
- 12
- 6.4
- 14.6
- 12.6
出所:ABB 2025年第4四半期財務資料の非継続事業注記(米国会計基準、2026年1月29日公表)。MEKAWIRE試算:売上総利益率=売上総利益÷売上高、営業利益率=営業利益÷売上高。2025年10月5日以降は減価償却を計上せず、配賦本社費(10~12月期3000万ドル、2025年1億2300万ドル)は全社その他に計上。
2026年10月1日時点
数字を読むうえで押さえるべき会計処理が三つある。ABBは取締役会が売却を承認した2025年10月5日にロボット事業を売却目的保有に分類し、以降は有形固定資産と無形資産の減価償却を計上していない。これまで同事業に配賦していた本社費は10~12月期で3000万ドル、2025年通期で1億2300万ドルに上り、現在は全社その他の区分に残存費用として計上されている。また注記の営業利益は米国会計基準の数値で、ABBが売却発表時に示した2024年の営業EBITAマージン12.1%とは基準が異なる。
ABBは2025年10月8日、ロボット事業を企業価値53億7500万ドルでソフトバンクグループに売却することで合意し、それまでの分離上場計画を取りやめた。合意時点でABBは税引き前の帳簿上の売却益を約24億ドル、正味の現金収入を約53億ドル、取引関連の現金納税額を4億~5億ドルと見込んだ。同事業の従業員は約7000人。ABBは今回の資料で、規制当局の承認と通常の前提条件を満たすことを条件に、2026年下期の完了を見込むとした。2025年末の売却目的保有資産は35億6200万ドルで、うちのれんが18億4700万ドル、棚卸資産が3億7200万ドル、売却目的保有の流動負債は11億800万ドルだった。
ロボット事業を手放すABB本体の成長はむしろ速い。10~12月期のグループ受注高は36%増の103億ドル(比較ベースで32%増)、売上高は13%増の91億ドルだった。2025年通期の受注高は368億ドル、売上高は332億ドル、営業EBITAマージンは19.0%。1株当たり0.94スイスフランの配当を提案し、2026年の比較ベース売上高成長率を6~9%と見込む。売却合意時、ロボット事業はグループ売上高の約7%を占めていた。マシンオートメーション部門はABBに残り、10~12月期からオートメーション事業領域に含めて開示されている。ロボティクスとディスクリートオートメーションを率いたアティヤ氏は2025年末に執行委員会を退任し、2026年末までにABBを去る。
国内大手は同じ時期、ABBを上回るロボット販売を記録した。ファナックは2025年12月までの9カ月間のロボット部門売上高が11.1%増の2692億4100万円になったと発表した。国内は減少したが、中国ではEV関連と一般産業の需要で大きく伸びた。安川電機のロボット事業は2025年11月までの9カ月間の売上高が7.3%増の1830億3800万円で、中国と韓国の大型案件がけん引した。ただセグメント営業利益は3.9%減の154億8400万円にとどまり、同社は日本、米州、欧州の自動車関連投資が低調だったと説明した。協働ロボットでは、米テラダインが10~12月期のロボット部門売上高を8900万ドルと発表した。
- ABBロボット事業(非継続事業)
- 2025年通期
- USD
- 2,331
- 2.8
- 294
- ABBロボット事業(非継続事業)
- 2025年10~12月期
- USD
- 581
- -2.2
- 37
- ファナック(ロボット部門)
- 2025年12月までの9カ月
- JPY
- 269,241
- 11.1
- データなし
- 安川電機(ロボット事業)
- 2025年11月までの9カ月
- JPY
- 183,038
- 7.3
- 15,484
- テラダイン(ロボット部門)
- 2025年10~12月期
- USD
- 89
- データなし
- データなし
各社の自社開示:ABB 2025年第4四半期財務資料(2026年1月29日)、ファナック第3四半期決算(2026年1月26日)、安川電機第3四半期累計決算(2026年1月9日)、テラダイン第4四半期決算発表(2026年2月2日)。ABBの前年比はMEKAWIRE試算(当期÷前期から1を引いた値)、ファナックと安川電機は会社発表値。利益の定義は異なり、ABBは米国会計基準の営業利益、安川電機はセグメント営業利益。期間と通貨がそろわないため規模ではなく伸び率で比較。nullは非開示。
2026年10月1日時点
日本の産業界にとって、今回の数字は二つの意味を持つ。まず、ファナックと安川電機が中国需要を取り込んで成長率でABBを上回った点は、国内勢の競争力を裏付ける。次に、ABBロボット事業の新たな所有者が日本のソフトバンクグループになることで、日本の資本が欧州の大手ロボットメーカーを傘下に収める構図が生まれる。人手不足で自動化投資を急ぐ国内製造業にとって、選択肢となる大手メーカーの経営方針は調達判断に直結する。
産業用ロボットメーカーの収益源は、ロボットアーム本体、それを動かすコントローラーとプログラミングソフト、そして長年にわたる保守サービスである。売上総利益率はこうした製品の価格と構成を映し、ABBのロボット事業は10~12月期にこの指標が改善した。膨らんだのはその下の販売費、管理費などの費用である。大企業から切り出される事業は通常この領域で一時費用を抱えるが、ABBは増加分のうち分離関連がいくらかを明らかにしていない。
MEKAWIREの試算では、ソフトバンクの買収額53億7500万ドルは2025年売上高の2.31倍、同年営業利益の18.3倍にあたる。不透明な点も残る。ロボット事業を非継続事業に移して以降、ABBは同事業の受注高を開示しておらず、受注残を見通せない。10月以降の減価償却停止は営業利益を押し上げる方向に働くため、10~12月期の減益幅は一段と目立つ。決算時点で規制当局の承認は出そろっておらず、完了後の経営陣も公表されていない。
今後の注目点は、2026年4月のABB第1四半期決算での残存費用と完了時期の更新、2026年2月期の安川電機と3月期のファナックの通期決算、そしてABBが下期に見込むソフトバンクへの売却完了である。
MEKAWIRE分析
ABBのロボット事業は売上高を保ちつつ最終四半期に費用が急増した状態でソフトバンクに移り、新たな所有者の最初の課題は成長よりも利益率の立て直しになる。
根拠はABB自身の注記にある。2025年の売上高は2.8%増え、10~12月期の売上総利益率は4.7ポイント改善したが、費用が48%増えたことで同期の営業利益は48%減った。売上高営業利益率は2025年通期で12.6%と前年の14.6%から低下し、10~12月期は12.0%から6.4%に下がった。
最も有力な反論は、この四半期が分離作業そのものでゆがんでいるという見方である。ABBは分離費用を約2億ドルと見込んでおり、費用増の一部は一時的とみられる。独立後に同じ売上総利益率がより高い営業利益につながれば、ソフトバンクは底値で買ったことになる。
強気シナリオ:10~12月期の売上総利益率36.5%は価格決定力が維持されていることを示す。完了後に分離費用がなくなれば2024年の14.6%への回復が視野に入り、ソフトバンクは売上高の2.31倍で収益性のあるロボットメーカーを手にする。
弱気シナリオ:2025年のロボット事業は成長率でファナックと安川電機に後れを取り、費用増の一部は構造的である。年1億2300万ドルの残存費用は、これまでグループと共有していた間接費の大きさを示しており、独立後にはその相当部分が自前の費用として戻ってくる。
注目すべきシグナル:
- 2026年4月:ABB第1四半期決算での残存費用、分離費用、承認手続きの進展。
- 2026年下期:ソフトバンクへの売却完了と新経営陣の発表。
- 2026年4~5月:安川電機(2月期)とファナック(3月期)の通期決算で成長率の差を確認。
- 2026年1月29日
- 23億3100万ドル(2024年:22億6700万ドル)
- 2億9400万ドル(2024年:3億3100万ドル)
- 5億8100万ドル(前年同期:5億9400万ドル)
- 3700万ドル(前年同期:7100万ドル)
- 600万ドル(前年同期:4700万ドル)
- 10~12月期3000万ドル、2025年1億2300万ドル
- 企業価値53億7500万ドル、2026年下期完了見込み
- 2.31倍(MEKAWIRE試算)
- 332億ドル、営業EBITAマージン19.0%
なぜ重要か
今回の数字は、ABBのロボット事業がABBの一部として公表する最後の通期実績であり、ソフトバンクが経営権を握る前に確認できる唯一の詳細な損益である。ソフトバンク体制の成果を測る基準がここで固まる。
売上高は維持したが利益は減った。同じ年にファナックと安川電機は中国需要で売上を伸ばしており、日本勢と欧州勢の差が数字に表れた。
日本にとっては、ソフトバンクグループという日本企業が欧州の大手ロボットメーカーを傘下に収めることの意味が大きい。人手不足を背景に自動化を急ぐ国内製造業には、ファナック、安川電機、川崎重工業に加え、日本資本のABBロボットという選択肢が加わる。
競合分析
ファナックのロボット部門は2025年12月までの9カ月で11.1%増収となり、中国での大幅な伸びを挙げた。安川電機のロボット事業は11月までの9カ月で7.3%増収だった。ABBのロボット事業は2025年通期で2.8%増にとどまり、10~12月期は2.2%減った。公表された伸び率で見ると、ABBは日本の2強に後れを取った。
収益性の比較には注意が要る。MEKAWIREの試算で安川電機ロボット事業のセグメント営業利益率は8.5%と、ABBロボット事業の2025年売上高営業利益率12.6%を下回る。ただしABBの数値には10月以降の減価償却停止の効果が含まれ、1億2300万ドルの本社費も外れているため、実際の差は見かけより小さい。
テラダインのロボット部門の10~12月期売上高8900万ドルは、ABBロボット事業の同期5億8100万ドルのごく一部にすぎない。協働ロボット市場の売上規模は従来型産業用ロボットに比べなお小さい。
企業価値の背景
企業価値53億7500万ドルは、2025年売上高23億3100万ドルの2.31倍、営業利益2億9400万ドルの18.3倍にあたる。同じ注記の2024年営業利益で計算すると16.2倍で、2025年の減益によって買収価格は割高に見えるようになった。
貸借対照表も参考になる。のれん18億4700万ドルは売却目的保有資産35億6200万ドルの51.9%を占める。ABBが見込む税引き前の売却益約24億ドルは、買収価格と帳簿価額の差である。
MEKAWIREは単独での企業価値を推計しない。上記の倍率はすべてABBの開示数値から算出した。
サプライチェーンへの影響
2025年末の売却目的保有資産のうち、棚卸資産は3億7200万ドル、売掛金は4億8900万ドル、有形固定資産は2億9000万ドルだった。ソフトバンクが引き継ぐ実物資産と運転資本はのれんに比べて小さく、価値の多くはブランド、顧客基盤、ソフトウエアにある。
ロボット事業は競合と同じく精密減速機、サーボモーター、ドライブ、コントローラーに依存する。ABBもソフトバンクも、売却に伴う調達や生産拠点の変更は公表していない。精密減速機などを供給する日本の部品メーカーにとって、新オーナーの調達方針は今後の注目点となる。
分離作業自体もサプライチェーンの課題である。ABBが一括運営してきた共通サービス、ITシステム、購買契約を切り分ける必要があり、費用増や1億2300万ドルの残存費用と整合する。
今後の注目点
2026年4月のABB第1四半期決算で、残存費用が減るか、分離費用が非継続事業の利益を引き続き圧迫するかが分かる。下期完了の見通しが変われば、承認手続きの進展または遅れを示す。
2026年2月期の安川電機と3月期のファナックの通期決算は、日本勢が冬場の四半期も成長率の差を広げたかを示す。
完了後、ソフトバンクがABBロボット事業の単独業績を初めて開示すれば、ABBの共通サービスを離れた後のコスト構造が明らかになる。
アナリストの見方
見立て:ABBのロボット事業は売上総利益率を保ちながら分離で膨らんだコストを抱えてソフトバンクに移り、新体制の初年度は成長よりもコスト管理が試される。
確信度:中。売上高、売上総利益、費用はABBがすべて開示している。ただABBは費用増を一時的なものと継続的なものに分けておらず、ロボット事業の受注高も開示せず、四半期の途中で減価償却の扱いを変えたため、確信度は高められない。
見方を変える要因:10~12月期の費用増の大半が一時的な分離費用だったと開示されれば、早期の利益率回復シナリオが強まる。2025年下期の受注減速が確認されれば逆の方向に働く。
問うべき論点
ABBへ:10~12月期のロボット事業の費用増5700万ドルのうち分離費用はいくらか。1億2300万ドルの残存費用のうち、完了後に消える部分はどれだけか。
ABBへ:セグメント開示から外れたロボット事業の2025年10~12月期と通期の受注高はいくらだったか。
ソフトバンクへ:完了後にABBロボット事業の単独業績を開示するか。経営は誰が担うのか。