家庭用ロボット市場2026を読み解く:年3420万台、中国2社が半期売上100億元超、家庭用ヒューマノイドは量産前
国際ロボット連盟(IFR)によると、床掃除機など家庭用機器が中心の個人向けサービスロボットは2025年に3420万台近く売れ、前年比37%増と業務用サービスロボットの約137倍に達した。市場の主導権は中国にある。ロボロックとエコバックスは2026年上半期にそれぞれ100億元を超える売上高を計上し、ルンバを生んだアイロボットは中国の受託製造会社に会社を渡す再建計画を申請した。
国際ロボット連盟(IFR)が大衆市場向けの家庭用ロボットが中心と説明する個人向けサービスロボットは、2025年に3420万台近く売れ、前年から37%増えた。同年の業務用サービスロボット25万台の約137倍、IFRが推計する全身型ヒューマノイド7000台の1000倍を超える。
家庭用ロボットはすでに大衆商品だが、投資家が話題にするロボットではない。床掃除機や芝刈り機が主力で、多くは中国の上場企業が作って売り、この分野を切り開いた米国企業は中国の供給元の手に渡ろうとしている。本稿では誰が市場を率い、開示資料が何を示し、家庭用ヒューマノイドに向かうベンチャー資金がなぜ別の事業に賭けているのかを整理する。
3420万台、それも業界の一部しか数えていない
IFRが9月30日に公表した「World Robotics 2026」のサービスロボット統計で、個人向けの販売は約3420万台だった。3420万を1.37で割った2024年の逆算値は約2500万台となる(MEKAWIRE算出)。連盟は家事の自動化、人工知能の搭載、スマートホームとの連携を主な潮流に挙げたが、発表文では掃除機、窓掃除機、芝刈り機を分けていない。
この数字は下限でもある。IFRの市場説明資料は、サービスロボット統計が把握する1001社のうち238社の標本に基づき、業界全体には推計していないとし、年度間の比較も控えるよう求めている。それでも方向ははっきりしており、では誰が売っているのかが次の問いになる。
上海上場の2社が半年で100億元を超えた
答えは上海の開示にある。蘇州の掃除機メーカー、エコバックスは8月22日の半期報告で2026年上半期の売上高を103億4088万元、19.2%増と開示した。北京の科創板上場企業ロボロックは8月25日に100億8441万元、27.6%増とした。2社合計で半年に204億元、差はわずか2.5%だ。
- エコバックス
- 上海 603486
- 2026年上半期
- 103億4088万元
- +19.2%
- 純利益12億4785万元(+27.4%)
- 特別損益除く8億540万元(-6.4%)
- ロボロック
- 上海科創板 688169
- 2026年上半期
- 100億8441万元
- +27.6%
- 純利益9億8644万元(+45.6%)
- 研究開発費は売上高の7.14%
- アイロボット
- ナスダック(11条計画で上場廃止)
- 2025年9月27日までの9カ月
- 3億7500万ドル
- -26.4%
- 純損失1億3160万ドル
- 2025年12月の計画で株式は杉川へ
- OneRobotics(スイッチボット)
- 香港
- 2025年12月30日上場
- 該当なし
- 該当なし
- 該当なし
- 調達総額16億4001万香港ドル
各社開示に基づき、通貨換算はしていない。増減は開示された前年比。OneRoboticsの売上高はMEKAWIREの検証済みデータにない。
2026年10月17日時点
成長の質は異なる。ロボロックの親会社株主帰属純利益は45.6%増の9億8644万元、特別損益を除く純利益は60.7%増で、利益は本業から生まれた。エコバックスの純利益は27.4%増の12億4785万元だが、特別損益を除くと6.4%減の8億540万元にとどまる。上半期利益の35.5%が特別項目だった計算で、営業キャッシュフローも85.8%減の2億635万元に落ちた。ロボロックの売上高研究開発費比率は8.67%から7.14%に下がった。
両社の純利益率は10~12%程度(ロボロック9.8%、エコバックス12.1%、開示数値からMEKAWIRE算出)。ソフトウエアではなく家電の利益率であり、この分野の開拓者に何が起きたかを説明する。
アイロボットは自社製品を作っていた工場のものになった
2002年に初代ルンバを発売したアイロボットは、2025年12月14日に米デラウェア州で連邦破産法11条の適用を申請した。再建支援契約により、再建後の株式100%は受託製造会社の深圳杉川機器人とその香港子会社が取得する。同社の開示によると、杉川はカーライル系から1億9070万ドルの貸付債権を買い取り、製造代金1億6150万ドルの債権も持ち、合計3億5220万ドルに達していた。既存株主の取り分はない。
業績の悪化が背景にある。2025年9月27日までの9カ月の売上高は26.4%減の3億7500万ドル、9カ月の純損失は1億3160万ドルに膨らみ、継続企業の前提に重要な疑義があると開示していた。救済になりえたアマゾンによる買収は2024年1月に破談となった。
同じ流れはMEKAWIREの記録にも表れている。スイッチボットの家庭用ロボットを手掛ける深圳のOneRobotics(ワンロボティクス)は売上の大半を日本で上げ、2025年12月30日の香港上場で16億4001万香港ドルを調達した。深圳のセンサーとロボット芝刈り機メーカー、LDROBOTは2026年10月7日、ドイツの芝刈り機メーカーSABOを最大600万ユーロで買収すると香港取引所に開示した。次世代の家庭用ロボットも同じ道をたどるのかが残る問いである。
家庭用ヒューマノイドは値札から違う賭けだ
ベンチャー資金が育てる家庭用ロボットは掃除機とまるで違う。1Xテクノロジーズは2025年10月、ヒューマノイドNEOの注文を2万ドルか月499ドルで受け付け始め、2026年4月にはカリフォルニア州ヘイワードの工場で年最大1万台を作れるとし、2027年末までに年10万台超を目指すと発表した。サンデーは2026年3月、記録用手袋を着けた人の動作データで学習する家庭用ロボットMemoのため、評価額11億5000万ドルでシリーズB 1億6500万ドルを調達し、今秋に招待制のベータを始める。LGエレクトロニクスはCES 2026で家庭用ロボットCLOiDを披露したが、価格と時期は示さなかった。
- 1Xテクノロジーズ
- NEO
- 2万ドルまたは月499ドル
- ヘイワード工場で年最大1万台、2027年末に年10万台超を目指す
- シリーズB 1億ドル(2024年1月)
- サンデー
- Memo
- 2026年秋から招待制の家庭ベータ
- 2027~2028年に本格出荷
- シリーズB 1億6500万ドル、評価額11億5000万ドル(2026年3月)
- LGエレクトロニクス
- CLOiD
- CES 2026で公開、価格未公表
- 日程未公表
- 上場企業グループ
MEKAWIREの検証済み記録にある各社発表に基づく。1Xの開示済み調達は計1億2350万ドル(シリーズA2の2350万ドルとシリーズBの1億ドル)で、報道のみの後続ラウンドは含めていない。
2026年10月17日時点
要は規模の差だ。1Xヘイワード工場の1年分の生産能力は、IFRが数えた2025年の個人向けサービスロボットの0.03%にすぎず、月499ドルの利用料が購入価格に届くまで40カ月かかる。いまできる作業ではなく、これから学ぶことに値段が付いた量産前の製品である。
MEKAWIRE分析
いま機能している家庭用ロボットは利益率10%の中国家電事業であり、家庭用ヒューマノイドは掃除機メーカーがアームを作れるようになる前にその経済性から抜け出せるかというベンチャーの賭けである。
前半の根拠は開示資料にある。中国2社はそれぞれ半年でアイロボットの9カ月分を上回る売上を上げ、19~28%成長し、最も有名な欧米ブランドは供給元の所有となった。単機能の掃除機はコスト、ナビゲーション用センサー、販路で競い、いずれも深圳と蘇州の強みだ。
最も強い反論は、二つの分野が合流するという見方だ。掃除機メーカーは供給網、売り場、数千万世帯の設置基盤を持ち、掃除機にアームを付けるのはヒューマノイドより小さな一歩である。そうなれば、ベンチャー資金を得た家庭用ヒューマノイド企業はすでに消費者価格で売る企業と競うことになり、シリーズBの金額の7.0倍というサンデーの評価額(11億5000万ドルを1億6500万ドルで割った値)のような数字は、ソフトウエアとデータだけで正当化する必要がある。
- 個人向けサービスロボット
- 約3420万台
- +37%
- 業務用サービスロボット(AMR含む)
- 約25万台
- +24%
- 医療ロボット
- 1万5300台
- +19%
- うち手術ロボット
- 8400台
- +57%
- 全身型ヒューマノイド(140cm超)
- 約7000台
- 該当なし
個人向けと業務用の比 = 3420万 / 25万 = 137倍。2024年の個人向け販売の逆算値 = 3420万 / 1.37 = 約2500万台。IFRの標本は1001社中238社で、全体推計ではない。
2026年9月30日時点
強気シナリオでは、家庭用ヒューマノイドが2027年までに実用的な自律性を得て掃除機には付かない価格を実現し、1X、サンデー、フィギュアAIが継続課金型の高級市場を築く。弱気シナリオでは、自律性の進歩が遅れて遠隔操作者が穴を埋める間に、中国の掃除機メーカーがはるかに安い価格で操作機能を加える。
注目すべき兆候は三つある。10月末に出るロボロックとエコバックスの第3四半期決算で、エコバックスの特別損益を除く利益が戻るか。2026年に出荷を始めるとする1XがNEOの引き渡し台数を初めて示すか。そしてIFR「World Robotics 2027」の個人向けサービスロボット統計である。中国の掃除機メーカーが消費者価格の移動型マニピュレーターを発表するか、家庭用ヒューマノイド企業が数千台規模の有償販売を開示すれば、見方を改める。
- Consumer service robots sold almost 34.2 million units worldwide in 2025, up 37%, the IFR said on Sept 30, 2026; professional service robots sold almost 250,000 (+24%) and medical robots 15,300 (+19%).
- The IFR describes consumer robots as mainly domestic robots for the mass market and does not split out robot vacuums or lawn mowers in its release; its figures come from 238 of 1,001 known makers and are not projected to the whole industry.
- Roborock reported first-half 2026 revenue of RMB 10,084.4 million, up 27.6%, and net profit attributable to shareholders of RMB 986.4 million, up 45.6%, in its Shanghai half-year report.
- Ecovacs reported first-half 2026 revenue of RMB 10,340.9 million, up 19.2%, and net profit of RMB 1,247.9 million, up 27.4%, but profit excluding non-recurring items fell 6.4% to RMB 805.4 million.
- iRobot filed for Chapter 11 on Dec 14, 2025 under a plan giving 100% of the reorganised equity to Shenzhen PICEA Robotics, its lender and main contract manufacturer, which held USD 352.2 million of claims.
- iRobot's revenue for the nine months to Sept 27, 2025 was USD 375.0 million, down 26.4% from USD 509.8 million a year earlier.
- 1X Technologies prices its NEO home humanoid at USD 20,000 or USD 499 a month and says its Hayward plant can build up to 10,000 a year; Sunday raised USD 165 million at a USD 1.15 billion valuation for its Memo household robot.
- One year of 1X's stated Hayward capacity equals 0.03% of the consumer robots the IFR counted in 2025.
なぜ重要か
個人向けサービスロボットは台数で最大のロボット市場であり、経済性がすでに上場企業の開示に表れている。ロボットが消費財になると何が起きるかを示す最良の事例で、これまでの答えは家電並みの利益率と中国製造の優位である。
家庭用ヒューマノイドの投資家にとって掃除機市場は、家庭がロボットを買う証拠であると同時に、製品が汎用化すれば価格と利益率がどうなるかという警告でもある。
競合分析
ロボロックとエコバックスは上半期売上高100億8000万元と103億4000万元で拮抗するが、ロボロックが27.6%とエコバックスの19.2%より速く伸び、増益も本業由来だ。エコバックスは上半期利益の35.5%が特別項目で、営業キャッシュフローは85.8%減った。開示を見る限り勢いはロボロックにある。
アイロボットはもはや独立した競合ではなく、新たな所有者の杉川はブランドではなく製造会社だ。日本市場ではOneRobotics(ワンロボティクス)が売上の大半を上げている。家庭用ヒューマノイドでは1Xが価格と生産能力を、サンデーが評価額とベータ計画を示し、LGは試作機にとどまる。
企業価値の背景
サンデーの11億5000万ドルはMEKAWIREの記録で唯一開示された家庭用ロボットのベンチャー評価額で、シリーズBの金額の7.0倍にあたる。上場掃除機メーカーは利益で評価されるが、本稿の基準日時点で時価総額を記録していないため引用しない。
アイロボットの株式価値は、供給元と貸し手の債権3億5220万ドルを前にゼロとなった。コスト競争力を失ったハードウエアブランドの価値がどこへ移るかを示している。
サプライチェーンへの影響
掃除機事業はライダーとカメラによるナビゲーション、ブラシレスモーター、電池、中国南部と東部に集中する受託製造で成り立ち、杉川は中国とベトナムの工場でアイロボット製品を作ってきた。家庭用ヒューマノイドはアクチュエーター、ロボットハンド、搭載計算機を要し、1Xはモーター、電池、ハンド、構造部材を内製するとしている。
日本の部品メーカーにとっての好機は、成熟し価格主導の掃除機の供給網より、まだ形成途上のヒューマノイドの供給網にある。減速機やモーターの国内勢が入り込む余地はそちらの方が大きい。
今後の注目点
1. 上海の規則で10月31日までに出るロボロックとエコバックスの2026年第3四半期決算、特にエコバックスの特別損益を除く利益。
2. 1Xが2026年に初めて示すNEOの引き渡し台数と、月499ドルの利用プランの比率。
3. OneRobotics(ワンロボティクス)の上場後初の通期決算と、日本での売上構成。
アナリストの見方
見立て:機能する家庭用ロボットは中国の家電事業であり、家庭用ヒューマノイドはその経済性から抜け出そうとするベンチャーの賭けだ。確信度は中程度。前半は開示で裏付けられるが、後半は有償の導入でまだ示されていない自律性の進歩に左右される。
家庭用ヒューマノイド企業が遠隔操作への依存の低い数千台規模の有償販売を開示すれば確信を高め、掃除機メーカーが5000ドル未満の実用的な移動型マニピュレーターを出せば下げる。
問うべき論点
ロボロックとエコバックスへ:操作機能を備えた家庭用ロボットを計画しているか、価格帯はどの程度か。上半期売上高に占めるロボット掃除機の比率はどれだけか。
OneRoboticsへ:日本での売上比率は上場後も維持されているか、家庭用ロボットでアームを持つ製品を出す計画はあるか。