工場ロボット貸し出しのFormic、5000万ドル調達 汎用ロボットへ拡大
米国のサービス型ロボット(RaaS)企業Formicは22日、Mercato Partnersが主導したシリーズBとS2G Investmentsからの借入を合わせ、5000万ドルの成長資金を調達したと発表した。株式と借入の内訳は開示していない。
同社は全米30超の州の100超の工場でロボットの稼働時間が累計75万時間を超え、Physical Intelligenceとロボット基盤モデルを製造現場向けに調整していると説明した。
工場ロボットを販売せず貸し出す米シカゴのFormicは22日、プレスリリースで5000万ドルの成長資金を調達したと発表した。Mercato Partnersが主導したシリーズBにLight Ray Ventures、Lightscape Partners、シティなど新規と既存の投資家が加わり、S2G Investmentsが借入資金を提供した。5000万ドルのうち株式と借入がそれぞれいくらか、企業価値がいくらかは明らかにしていない。
調達額より注目すべきは運用実績だ。同社はロボットの累計生産稼働時間が75万時間を超えたとしている。2024年6月の資金調達リリースでは10万時間だった。約28カ月で7.5倍に増えた計算で、Formicはこの実績を貸し出し事業以上のものに変えようとしている。
パレタイザーから汎用ロボットへ
Formicの現在の事業は特定工程の自動化だ。食品飲料、消費財、化学、航空宇宙、防衛、包装の工場にパレタイジング、ケース詰め、マシンテンディング、キッティング、作業補助のロボットを設置し、設備、立ち上げソフト、現場サービス、保守、ファイナンス、性能監視を一括して月額固定で請け負う。顧客に初期投資は要らない。同社は全米30超の州の100超の施設で数百台を運用し、稼働率は99.6%、契約更新率は97%だと説明した。
新たな資金はこの基盤を汎用ロボットへ広げることに充てると同社は述べた。同じサービスモデルで、より多くの種類のロボットにより複雑な作業を担わせる狙いだ。金属加工という新分野に参入し、航空宇宙、宇宙、防衛、医療、エネルギー向けの事業も深める。イリノイ州ボリングブルックの新施設でロボットを組み立てて試験し、カリフォルニア州オークランドの研究開発拠点で新機能を開発している。ロボットを生産に投入する速度は1年前より約3倍速くなったという。
Physical Intelligenceとの協業が要
リリースで最も戦略的なのは協業だ。FormicはPhysical Intelligenceのロボット基盤モデルに自社の生産データと運用ノウハウを組み合わせ、製造作業向けに調整していると明らかにした。2025年11月に6億ドルのシリーズBを調達したPhysical Intelligenceは、Formicによると、Pi APIベータ版の発表でFormicの取り組みを紹介した。基盤モデルは多数のロボットと作業のデータで学習した単一のニューラルネットワークで、従来のロボットセルよりはるかに少ないプログラミングで新しい作業に適応できる。仕組みはMEKAWIREのVLAモデル解説にまとめている。
要は役割分担にある。モデル企業はソフトを持つが工場の現場を持たない。Formicは現場とサービス人員、ファイナンスを持ち、設置したロボット1台ごとに作業、環境、修正動作のデータが蓄積される。取締役に就くMercatoのRyan Sanders氏は、ボトルネックが研究室から荷積み場へ移りつつあると語った。
調達規模の比較
- 2022-01-18
- シリーズA
- 2650万
- Lux Capital
- 2024-06-25
- シリーズA追加
- 2740万
- Blackhorn Ventures
- 2026-10-22
- シリーズBと借入
- 5000万(借入含む、内訳非開示)
- Mercato Partners、借入はS2G Investments
同社プレスリリースに基づく。開示累計1億390万ドル(直近ラウンドの借入を含む)。ラウンド間隔は29カ月と28カ月。
2026年10月23日時点
Formicが2022年1月以降に開示した累計調達額は1億390万ドルとなる。3回の発表額を足したもので、直近ラウンドには内訳非開示の借入が含まれる。ラウンドの間隔は29カ月と28カ月だった。
- 2026-03-11
- Mind Robotics
- シリーズA
- 5億
- 2026-05-13
- Mind Robotics
- シリーズA-1
- 4億
- 2026-06-09
- Standard Bots
- シリーズC
- 2億
- 2026-02-04
- Machina Labs
- シリーズC
- 1億2400万
- 2026-01-27
- Vention
- 資金調達ラウンド
- 1億1000万
- 2026-01-29
- RobCo
- シリーズC
- 1億
- 2026-10-06
- Multiply Labs
- シリーズB
- 7500万
- 2026-10-22
- Formic
- シリーズBと借入
- 5000万
主分野が産業用ロボットの企業について検証済みのMEKAWIREデータ、2025年10月23日から2026年10月22日。開示額であり推計ではない。
2026年10月23日時点
MEKAWIREデータベースの産業用ロボット企業と比べると、今回の規模は小さい。Standard Botsは6月に2億ドルのシリーズCを、サブスクリプション型も手がける独RobCoは1月に1億ドルを調達した。直近12カ月の同分野で5000万ドル以上の8件のうち、Formicが最小だ。
MEKAWIRE分析
Formicが資金を集めた対象はロボットではなく、フィジカルAIの「届ける層」だ。汎用モデルが工場に届くには、設置済みの機体とサービス要員、ファイナンスを持つ者を通るという賭けである。
根拠はFormic自身の数字にある。2024年と2026年のリリースはいずれも更新率97%を示し、その間に生産時間は7.5倍になった。顧客を失わずにサービスモデルが拡大したことを示す。
反論は資本の重さだ。サービス型では設備がFormicのバランスシートに積み上がる。今回借入が混じるのも、2022年に1億ドル超の設備ファイナンス枠を確保したのもそのためだ。株式の規模も企業価値も非開示で、実際の成長資金の増加は判断しにくい。
日本の読者にとっては人手不足対策の文脈で示唆がある。国内ではファナックや安川電機のロボットをSIerが据え付ける売り切り型が主流で、中堅中小の製造業には初期投資が導入の壁になってきた。Formicの数字は、月額型と運用データの蓄積が導入の壁を下げうることを示している。
強気シナリオでは、汎用モデルが立ち上げ期間をさらに縮め、Formicの機体群がモデル企業の買うデータ源となり、次のラウンドでプラットフォームとして評価される。弱気シナリオでは、設備とサービスの費用が機体数とともに膨らみ、1億ドル超を調達した競合が貸し出し市場に参入し、モデル協業は試験段階にとどまる。
注目すべき兆候は三つある。Physical Intelligenceのモデルを使った初の工場事例の公表、株式と借入を分けた開示、そして次の発表で100施設と30州という規模がどこまで伸びるかだ。
- 5000万ドル(2026年10月22日)、株式と借入の内訳は非開示
- Mercato Partners主導のシリーズB、Light Ray Ventures、Lightscape Partners、シティなどが参加
- S2G Investments
- 全米30超の州、100超の施設で数百台
- 累計生産稼働75万時間超、稼働率99.6%、契約更新率97%
- 設備、ソフト、保守、ファイナンスを一括し月額固定で提供
- 汎用ロボットと金属加工へ拡大、Physical Intelligenceと協業
- Mercato PartnersのRyan Sanders氏が就任
なぜ重要か
Formicは試験導入ではなく商用で稼働する機体群を数字で示す数少ない米国ロボット企業だ。数百台、100超の工場、75万時間超の生産稼働、稼働率99.6%、更新率97%。モデル開発企業に欠けているのはまさにこの実績である。基盤モデルが米国の中堅工場に入るには、誰かがハードのファイナンス、設置、保守を担う必要があり、Formicはその位置を狙う。
競合分析
Standard Bots(2026年6月、シリーズC 2億ドル)とRobCo(1月、シリーズC 1億ドル)は自社ロボットを販売し、RobCoは欧州でサブスクリプションも提供する。Vention(1億1000万ドル)はセルフ設計と立ち上げのプラットフォームを売る。FormicはUniversal Robots、ファナック、KUKA、ABBのアームを使う機種非依存型で、競合はロボット新興企業と同じくらい既存のSIerでもある。
企業価値の背景
企業価値は開示されていない。確認できるのは2022年1月に同社が示した「企業価値1億ドル超」のみだ。5000万ドルには株式と借入が非開示の比率で混在するため、評価額の上昇幅や希薄化は算出できない。開示累計1億390万ドルにもこの借入が含まれる。
サプライチェーンへの影響
Formicはファナックなど既存メーカーのアームでセルを構成し(過去の開示による)、イリノイ州ボリングブルックで組み立てと試験、オークランドで研究開発を行う。アーム価格と納期、グリッパー、ビジョン、コンベヤー、30超の州にわたる現場サービスの人件費が変数となる。日本の減速機やサーボ部品メーカーにとっては、売り切り型と並ぶ新たな需要経路になりうる。
今後の注目点
FormicのセルでPhysical Intelligenceのモデルを使う初の公開事例、株式とS2G借入を分けた開示、100施設を超える規模の更新、金属加工の初顧客、Mercatoの人脈を通じた取締役や経営陣の追加。
アナリストの見方
論点は、フィジカルAIの価値が立ち上げ、保守、ファイナンスを握る側に積み上がるというものだ。確信度は中程度。運用指標は2回の発表で一貫して良好だが、分野内でラウンドが小さく借入比率も不明で、資産の重い機体群を急拡大する余地には制約がある。
問うべき論点
5000万ドルのうち株式とS2G借入はそれぞれいくらか。上位10社の売上比率は。現在Physical Intelligenceのモデルが稼働するFormicの現場はどこで、作業成功率はどの程度か。契約1年目と3年目でロボット1台当たりの粗利率はどう変わるか。他社製ヒューマノイドもファイナンス対象にするのか。
