LG電子、関節ブランド「AXIUM」でロボット用アクチュエーターに参入 家庭用ロボット「CLOiD」をCESで初披露

LG電子はCES 2026で家庭用ロボット「CLOiD」を公開し、モーター、ドライブ、減速機を一体化したロボット用アクチュエーターのブランド「LG Actuator AXIUM」を立ち上げた。ロボットは関節仕様を詳しく示したが価格と発売日はなく、アクチュエーターは仕様も顧客も明かさなかった。3日後にアトラスを初の顧客と発表した現代モービスに出遅れた格好だ。
韓国LG電子はCES 2026で、ロボット本体と中核部品の両面に同時に踏み込んだ。同社は1月4日、車輪で移動する家庭用ロボット「LG CLOiD(クロイド)」を発表し、同じ発表の中でロボット用アクチュエーターのブランド「LG Actuator AXIUM(アクシウム)」を打ち出した。ラスベガスの会場で注目を集めたのはロボットだったが、事業上の重みはアクチュエーターの方が大きい。韓国の同業である現代モービスが人型ロボットの材料費で最大の比重を占めると説明する部品に、世界有数の家電メーカーが参入することを意味するからだ。
LGが数字で示したのは部品ではなくロボットの仕様だった。同社によるとクロイドの両腕はそれぞれ7自由度を持ち、手には独立して動く指が5本ずつある。上半身を傾けて高さを変えられるため、膝の高さ以上にある物をつかめる。頭部のチップセットが頭脳の役割を担い、ディスプレー、スピーカー、カメラ、各種センサーを備える。LGは視覚言語モデル(VLM)と視覚言語行動モデル(VLA)を数万時間分の家事データで学習させたとしている。
アクシウムについては説明があっただけで、仕様は示されなかった。LGは、回転力を生むモーター、電気信号を制御するドライブ、速度とトルクを調整する減速機を一体化し、ロボットの関節として機能する小型モジュールだと説明した。1月7日のCES発表資料では、家電用モーターの設計経験を生かしコストと性能を最適化したプラットフォームと位置づけ、軽量、小型、高効率、高トルクを強みに挙げた。定格トルク、重量、価格、生産拠点、顧客は公表していない。
実演は家事が中心だった。LGによると、クロイドは冷蔵庫から牛乳を取り出し、オーブンにクロワッサンを入れ、洗濯機を回し、衣類を畳んで積み重ねた。スマートホーム基盤ThinQとも連携する。子どもやペットのそばでの安全を考えて重心を低く設計したといい、「アプライアンスロボット」と「ロボット化された家電」の開発を続けて家事の自動化を目指すとした。LGで家電事業を率いる白承泰社長(Steve Baek)は、クロイドは人と自然に関わるよう設計したと述べた。
今回の発表は2年間の投資の上に成り立つ。LGの発表によると、同社は2024年3月に米シリコンバレーのサービスロボット企業ベアロボティクスの株式21%を6000万ドルで取得し、2025年1月にコールオプションを行使して出資比率を51%に高め経営権を握った。自社の業務用ロボット「CLOi」事業はベアに移管した。CES前には家電事業本部内にHSロボティクス研究所を設けたと明らかにしている。
原資は家電事業が稼ぐ。LG電子は1月30日、2025年の連結売上高が89兆2000億ウォン、営業利益が2兆4800億ウォンだったと発表した。ロボット研究組織を抱える家電事業本部は売上高26兆1300億ウォン、営業利益1兆2800億ウォンを計上した一方、テレビ事業は7509億ウォンの営業赤字だった。同じ資料の2026年の見通しはAI家電、空調とデータセンター冷却、ソフトウエア定義車両に重点を置き、ロボットの目標は示さなかった。
- 家電(HS)
- 26.13
- 1.28
- 車載部品(VS)
- 11.14
- 0.56
- 空調(ES)
- 9.32
- 0.65
- テレビ(MS)
- 19.43
- -0.75
- LG電子連結合計
- 89.2
- 2.48
LG電子が2026年1月30日に発表した数値。連結合計には事業本部外の項目を含む。マイナスは営業赤字。
2026年10月1日時点
韓国の大手で動いているのはLGだけではない。クロイド発表から3日後の1月7日、現代モービスは米ボストンダイナミクスの次世代アトラスにアクチュエーターを供給すると発表し、初の正式なロボット顧客だと説明した。サムスン電子は2024年12月31日、レインボーロボティクスへの出資比率を14.7%から35%に引き上げて筆頭株主となり、最高経営責任者直轄の未来ロボット推進団を設けると発表している。現代自動車グループはボストンダイナミクスという確実な買い手を、サムスンは自前のロボットメーカーを持つ。CES時点のLGのアクチュエーターにはどちらもない。
- LG電子
- 1958
- AXIUMアクチュエーターブランドとCLOiD家庭用ロボットを発表
- 2026-01-04
- データなし
- 現代モービス
- データなし
- ボストンダイナミクスの次世代アトラス向けアクチュエーター供給で協力
- 2026-01-07
- データなし
- LG電子
- 1958
- コールオプション行使でベアロボティクス株を買い増し
- 2025-01-24
- 51
- サムスン電子
- 1969
- レインボーロボティクスの筆頭株主に
- 2024-12-31
- 35
日付と出資比率は各社リリース、設立年はMEKAWIRE企業データベースによる。nullは非公表または該当なし。
2026年10月1日時点
日本の部品メーカーにとっては、無視できない新顔となる。人型ロボットの関節はモーター、制御器、減速機の組み合わせで、小さく軽い筐体に大きなトルクを詰め込み、数百万回の動作に耐え、顧客が受け入れる価格に収めることが勝負になる。家電メーカーは大量のモーター生産ラインと品質管理体制をすでに持つ。手薄なのは精密減速機で、この分野はハーモニックドライブシステムズやナブテスコといった日本の専門メーカーが長く強みを持ってきた。LGはアクシウムの減速機を内製するかどうかを明らかにしていない。外部調達となれば、日本の減速機メーカーにとって新たな販路になり得る。
人手不足が深刻な日本の製造業や物流の現場にとっても、関節モジュールの価格が下がれば人型ロボット導入の採算は改善する。家電の量産ノウハウを持つ企業が関節市場に参入する意味はそこにある。ただしそれは、LGが外部顧客を確保し量産体制を整えた場合の話だ。
リスクはLGが語らなかった部分にある。トルク密度、重量、価格が公表されていないため既存メーカーの製品と比べようがなく、新規のアクチュエーター供給者はグループ内の需要で耐久性を証明するのが通例だ。クロイドも価格と発売日がなく、家庭用ロボットには華やかな実演の後に店頭に並ばなかった例が多い。
MEKAWIRE分析
LGのCESでの本当のロボット発表はロボット本体ではなく関節であり、アクシウムは家電モーターの大手があらゆる人型ロボットメーカーの部品表に入り込む入り口になり得る一方、クロイドはまだ展示品にとどまる。
根拠はLGがどこに情報を盛り込んだかにある。クロイドは関節数とAIモデルの説明があったが、価格と日程はなかった。アクシウムには独自ブランド、ロボット市場全体に向けたコスト最適化プラットフォームという位置づけ、家電モーター技術とのつながりがそろっていた。現代モービス自身が示した材料費の60%超という比率は、韓国の部品大手がこの市場を狙う理由を物語る。
最も有力な反論は、LGに核となる顧客がいないことだ。現代モービスにはアトラスがあり、サムスンはレインボーロボティクスを傘下に持つ。日本と中国の減速機専業メーカーはロボットメーカーとの間で長年の認定実績を積んでいる。最初の買い手がいない部品メーカーは、認定だけで何年も費やしかねない。
強気シナリオ。家電モーターの生産規模と品質体制により、LGは専業のアクチュエーターメーカーより安く作りつつ信頼性でも劣らない。クロイドとベアロボティクスが社内の試験場になる。世界の人型ロボットメーカー1社を顧客に得られれば、アクシウムは家電事業本部の第2の柱となる。
弱気シナリオ。アクチュエーターの性能を決めるのはモーターではなく減速機とトルク密度だが、LGはどちらも公表していない。顧客が名乗り出なければアクシウムはブランドにとどまり、クロイドは発売されなかった家庭用ロボットの列に加わる。
注目すべき兆候:
- 2026年10月下旬に予定されるLG電子の2026年7〜9月期決算で、アクチュエーター売上高や外部顧客が開示されるか。
- 2027年1月のCES 2027(ラスベガス)で、アクシウムの仕様や価格、クロイドの発売日が示されるか。
- 2027年3月のLG電子定時株主総会で、アクチュエーター専用ラインへの投資が語られるか。
- 2026年1月4日(CLOiD、AXIUM)、1月7日(CES総合リリース)
- CES 2026、ラスベガス、1月6〜9日、ブース15004
- 2本、各7自由度
- 独立駆動の指が各5本
- VLMとVLA、数万時間の家事データで学習
- モーター、ドライブ、減速機一体の関節モジュール。仕様、価格、顧客は非公表
- 売上高89兆2000億ウォン、営業利益2兆4800億ウォン
- 2025年1月のコールオプション行使で51%(2024年3月に21%を6000万ドルで取得)
- 現代モービスがアトラス向けアクチュエーター供給を発表(2026年1月7日)
なぜ重要か
人型ロボットの付加価値は関節に集まる。現代モービスはアトラス向け供給の発表で、アクチュエーターが材料費の60%超を占めると説明した。家電並みの量と価格で関節モジュールを作れる企業は、どのロボットブランドが勝っても利益を得られる。特定のロボットに賭けるより安全な戦略だ。
LGが消費者向け見本市のCESで法人向け部品を立ち上げたことは、アクシウムを自社製品以外にも売る意思の表れと読める。ただし発表資料に外部販売の条件は一切なかった。
競合分析
現代モービスにはLGにないものが二つある。最初の顧客であるボストンダイナミクスと、北米に年産3万台のロボット工場を建てると表明した親グループだ。サムスン電子はレインボーロボティクスを子会社に持ち、自社開発部品を試すロボット基盤がある。
日本勢に目を向けると、ハーモニックドライブシステムズやナブテスコなどの減速機メーカーはロボットメーカーとの長い取引実績を持つ。LGが掲げる差別化は家電モーター設計に由来するコストと性能の最適化だが、検証にはトルク密度と価格の公表が要る。
企業価値の背景
LG電子の2025年の営業利益率は約2.8%(営業利益2兆4800億ウォン÷売上高89兆2000億ウォン)だった。ロボット研究組織を抱える家電事業本部は約4.9%(1兆2800億ウォン÷26兆1300億ウォン)で、クロイドとアクシウムの社内の資金源となる。
LGはロボット売上高を開示していない。価格が明らかなロボット関連取引は2024年3月にベアロボティクス株21%を6000万ドルで取得した件だけで、その後の経営権取得の価格は非公表のため、ロボット事業の市場評価を測る物差しがない。
サプライチェーンへの影響
LGの説明では、アクシウムはモーター、ドライブ、減速機の三つで構成される。モーターとパワーエレクトロニクスは家電事業の基盤がある。未解決なのは減速機で、内製か外部調達かは明らかにしていない。
外部調達なら、アクシウムのコスト競争力は競合にも納入する供給元次第となり、日本の減速機メーカーには商機となり得る。内製なら、家電工場が通常持たない精密歯車加工の能力が必要になる。
今後の注目点
第一にLG電子が公表するアクシウムの外部顧客や供給契約。第二に定格トルク、重量、関節当たり価格などの仕様公表。第三にクロイドの価格と発売日。
このほか、2026年10月下旬の7〜9月期決算からロボットが独立した項目として現れるか、LGが経営権を持つベアロボティクスがサービスロボットにアクシウムを採用するかも注目点だ。
アナリストの見方
見立て:他社の人型ロボットに入り込めるアクシウムこそLGのCES発表の重要な半分だが、顧客が現れるまでは実証されていない。確信度は中程度。
理由:開示されたコスト比率と確認できるLGの家電生産規模は戦略の論理を支えるが、LGはアクチュエーターの仕様、価格、顧客を示しておらず、1月30日の業績見通しにもロボットの目標はなかった。
問うべき論点
アクシウムの減速機は内製か。初期製品のトルク帯、重量、価格はどうか。アクシウムは人型ロボット向けか、それともクロイドのような車輪型サービスロボットが主な用途か。
LGが経営権を持つベアロボティクスが最初の外部ユーザーになるのか。クロイドはいつ、いくらで発売されるのか。