分析アメリカ合衆国

フィジカルインテリジェンス(π)とは APIで売るロボットAIモデル

配信 1分で読めます
元記事

フィジカルインテリジェンス(π)は、ロボットではなくロボットを動かす汎用AIモデルを開発する米サンフランシスコの企業。視覚言語行動(VLA)モデルを2024年10月のπ0から2026年4月のπ0.7まで公開し、2026年10月13日からは開発者が「Pi APIベータ」でモデルを微調整し運用できる。

MEKAWIREがモデル、パートナーの成果、報道された資金調達をスキルドAI、フィギュアと比較した。

フィジカルインテリジェンスは「Pi」や「π」と略される米サンフランシスコの企業で、ロボットそのものではなく、ロボットを制御する汎用AIモデルを開発している。2024年10月のπ0から2026年4月のπ0.7まで、同社のモデルはいずれも視覚言語行動(VLA)モデルで、カメラ映像と文章の指示を受け取り、モーターへの指令を出力する。2026年10月13日からは外部の開発者が「Pi APIベータ」でモデルを微調整し、動かせるようになった。企業情報はフィジカルインテリジェンス、技術の仕組みはMEKAWIREのVLA解説にある。

本稿は読者から繰り返し寄せられる三つの問いに答える。Piが実際に何を出したのか、ハードウエアを持たずにどう稼ぐのか、そしてMEKAWIREのデータベースで評価額100億ドルを超えるほかのロボットAI企業、スキルドAIとフィギュアとどう違うのか。製品に関する記述はすべてPi自身の投稿で確認した。同社が自ら発表していない資金調達の数字は「報道」と明記した。

MEKAWIRE の最新記事

一つの構想で積み上げた2年間のモデル

フィジカルインテリジェンスの主な公開(同社投稿ベース)
  • 2024年10月31日
    公開内容
    π0
    同社の説明
    初の汎用方策、多様なロボットに対応、指示または微調整
  • 2025年1月16日
    公開内容
    FASTトークナイザー
    同社の説明
    汎用方策の学習を5倍高速化
  • 2025年2月4日
    公開内容
    openpi
    同社の説明
    π0とπ0-FASTのコードと重みを公開
  • 2025年4月22日
    公開内容
    π0.5
    同社の説明
    初めて見る台所や寝室を片付け
  • 2025年11月17日
    公開内容
    π*0.6
    同社の説明
    経験からの強化学習、最難関作業の処理量2倍超
  • 2026年2月24日
    公開内容
    パートナー成果
    同社の説明
    ウィーブとウルトラが実運用での改善を公表
  • 2026年3月3日
    公開内容
    MEM記憶
    同社の説明
    10分を超える作業に対応
  • 2026年4月16日
    公開内容
    π0.7
    同社の説明
    専用モデル並みの性能、技能を組み合わせる汎化の兆し
  • 2026年10月13日
    公開内容
    Pi APIベータ
    同社の説明
    外部開発者向けの微調整とホスティング推論

出所:フィジカルインテリジェンスのブログと研究投稿(pi.website)。性能の記述は同社の説明。

2026年10月31日時点

Piは2024年10月31日の最初の投稿で、π0を多様なロボットのデータで学習した汎用方策の試作版と紹介した。文章で指示することも、洗濯物たたみや食卓の片付けといった難しい作業向けに微調整することもできるとした。2025年2月4日にはopenpiリポジトリでπ0のコードと重みを公開し、汎用方策の学習を5倍速くするという行動トークナイザーを使った派生モデルπ0-FASTも併せて出した。重みの公開で、研究室やスタートアップは誰でも自社ロボットにπ0を合わせて使えるようになり、Piの名前は顧客の範囲をはるかに超えて広がった。

2025年4月22日のπ0.5は汎化を狙い、初めて見る台所や寝室を移動型マニピュレーターが片付ける様子を示した。2025年11月17日のπ*0.6は、Recapと呼ぶ手法でロボット自身の経験を強化学習に使った。同社によると最も難しい一部の作業で処理量が2倍超に増え、失敗率は半分以下に下がった。エスプレッソ飲料を丸一日作り続け、実際の工場の梱包に使う箱を組み立てたという。2026年3月3日には10分を超える作業向けの長期と短期の記憶を加えた。2026年4月16日に公開したπ0.7が現在の主力モデルだ。Piは、器用さを要する作業で微調整した専用モデルと同等の性能を出し、たたみ作業のデータが一切ないロボットで洗濯物をたたむなど、技能を組み合わせる汎化の初期の兆しを示したと説明している。

事業モデルはAPIで売る「知能の層」

Piはロボットを売らない。2026年2月24日の投稿で自社モデルを「フィジカルインテリジェンスの層」と呼び、2社の導入企業に自ら成果を公表させた(MEKAWIRE記事)。サンフランシスコのコインランドリーで衣類をたたむウィーブロボティクスは、自社データをPiの事前学習に加えたところ、つかみ損ねが42%、人の介入が50%減ったとした。ウルトラは、π0.6が実際の顧客注文を1シフト通して96.4%の自律率で梱包したと報告した。

10月13日のベータは、この流れを商品にしたものだ。開発者が実演データをアップロードすると、Piが自社で管理する計算資源でモデルを微調整し、ロボットはホスティングされた推論ゲートウェイを呼び出す。投稿に名前が挙がった初期利用者はアーモンド、シェフロボティクス、フォーミック、ファウンドリー、ウルトラなどで、日本やスイス、米国各地で運用された。アーモンドは4日間の反復で実用的なバリ取りモデルを得た。フォーミックは10月22日、Piのモデルを工場作業向けに調整していると明らかにした(MEKAWIRE記事)。Pi自身、一部のクラウド推論利用者でネットワーク接続の問題があったと記しており、この方式の最も明確な技術的制約だ。価格、売上高、顧客数は開示していない。

スキルドAI、フィギュアとの比較

フィジカルインテリジェンスとスキルドAI、フィギュアの比較
  • 本社
    フィジカルインテリジェンス
    サンフランシスコ
    スキルドAI
    ピッツバーグ
    フィギュアAI
    サンノゼ
  • 販売するもの
    フィジカルインテリジェンス
    πモデル、Pi APIベータ
    スキルドAI
    Skild Brainモデル
    フィギュアAI
    人型ロボット「フィギュア03」とHelixモデル
  • 自社ハードウエア
    フィジカルインテリジェンス
    なし
    スキルドAI
    なし
    フィギュアAI
    あり(BotQ工場)
  • 直近の開示調達
    フィジカルインテリジェンス
    2025年11月シリーズB6億ドル(報道)
    スキルドAI
    2026年1月シリーズC14億ドル
    フィギュアAI
    2025年9月シリーズC10億ドル超
  • 評価額
    フィジカルインテリジェンス
    56億ドル(報道)、2026年10月に200億ドルでの協議を報道
    スキルドAI
    140億ドル超
    フィギュアAI
    390億ドル
  • 開示された事業指標
    フィジカルインテリジェンス
    なし、パートナー指標のみ
    スキルドAI
    年間経常収益1億ドル超、有料顧客60社超
    フィギュアAI
    2026年4月までにフィギュア03を350台超出荷

出所:MEKAWIRE資金調達データベースと解説記事。スキルドとフィギュアは各社発表、フィジカルインテリジェンスの調達額はメディア報道(CNBC、ブルームバーグ)で同社発表ではない。倍率は後の評価額を前の評価額で割った値。

2026年10月31日時点

3社の立ち位置はそれぞれ異なる。スキルドAIも一つのモデルで多くのロボットを動かす事業だが、売上を開示している。年間経常収益1億ドル超、有料顧客60社超だ。フィギュアは人型ロボット「フィギュア03」と、それを動かすHelixモデルを自前で開発し、2026年4月までにBotQ工場から350台超を出荷したとしている。Piは売上も出荷台数も開示しておらず、公開された根拠は研究成果とパートナーの指標だけだ。

Piは自社サイトで資金調達を発表したことがない。MEKAWIREのデータベースには報道ベースで2件ある。2024年11月の約4億ドル(評価額約24億ドル)と、2025年11月のキャピタルG主導による6億ドル(評価額56億ドル)だ。ブルームバーグは2026年10月27日、Piが評価額約200億ドルで約10億ドルを調達する協議をしていると報じたが(MEKAWIRE記事)、同社は確認していない。MEKAWIREの計算では、報道された評価額は2件の間の381日で2.3倍になった。200億ドルでの調達が実現すれば直近の報道値の3.6倍となり、スキルドが開示した140億ドルを上回り、フィギュアの390億ドルの約半分になる。

MEKAWIRE分析

Piは、言語モデルがソフトウエアの共通基盤になったように、ロボットの知能もAPIで買う共通の層になると賭けており、10月13日のベータはロボットメーカーが実際に対価を払うかを見極める最初の試金石だ。

この賭けの根拠は研究室のデモより確かだ。ウィーブとウルトラの数値は実際の顧客現場のもので、APIの利用先は厨房、農場、工場から無人ホイールローダーにまで及ぶ。公開した重みで、Piは製品より先に開発者の基盤を手にした。最も強い反論は、ロボットはチャット画面ではないという点だ。制御ループには低遅延が要り、ロボットのデータは高価で現場ごとに違う。Piの投稿もクラウド推論の接続問題を認めている。フィギュアはハードウエアとの緊密な統合が勝負を決めるとしてモデルを内製し、スキルドはPiが示していない売上を開示している。

ファナックや安川電機、川崎重工業などハードウエアに強い日本勢にとっても、自社でモデルを育てるか、Piのような外部モデルをAPIで使うかという選択が具体的になってきた。強気シナリオでは、APIがロボット新興企業の標準的な出発点になり、ウィーブの例のようにパートナーのデータが事前学習に戻り、世代ごとに差が広がる。弱気シナリオでは、大手ロボットメーカーが自前でモデルを学習し、新興企業は公開重みだけを使って対価を払わず、評価額が開示された売上を大きく先行する。

MEKAWIREの見方を変える材料は、Piによる顧客数や売上高の開示、API価格の公表、大手ロボットメーカーによるPiモデル採用の発表だ。注目すべき兆候は三つある。報道された10億ドルの調達をPiや主導投資家が正式に発表するか、その条件はどうか。APIが条件を公表してベータを終えるか。そしてπ0.7の次のモデルが、学習していないロボットでどんな数値を出すかだ。

このニュースは好材料か、悪材料か

 

要点
概要
サンフランシスコの汎用ロボットAI(VLA)モデル開発企業、ロボットは作らない
モデル
π0(2024年10月)、π0.5(2025年4月)、π*0.6(2025年11月)、π0.7(2026年4月)
オープンソース
openpiでπ0とπ0-FASTのコードと重みを公開(2025年2月4日)
製品
Pi APIベータ(2026年10月13日):データアップロード、微調整、ホスティング推論
パートナー成果
ウィーブ:つかみ損ね42%減、介入50%減。ウルトラ:1シフトの自律率96.4%
資金調達(報道)
2025年11月に6億ドル(評価額56億ドル)、2026年10月27日に評価額200億ドルで10億ドルの協議と報道
売上高
非開示
出典